漱石の猫


舞台裏から社会を育むプロデューザー


インターネット上の無料の百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」を書いたり編集をする人、ウィキペディアンと呼ばれています。
「漱石の猫」って、変な名前だと思ったでしょう? これはウィキペディアでのアカウント名で、本当の名前は伊達深雪(だてみゆき)といいます。ウィキペディアの活動はボランティアなので、休日や夜寝る前など、自由になる時間に活動するのですが、ふだんは高校の図書館で働いています。

ワーク

あなたの今(またはこれまで)の仕事や活動の内容や、きっかけを教えてください

はじまりは、高校生が学校図書館に調べものにきても、本を読んでくれなくなってきたことでした(笑)。みんな、そんなにインターネットが好きでタブレットばかり見てるなら、ネットで調べても、信頼できるちゃんとした情報にかんたんにたどり着けるようにしたい!と思ったのが、ウィキペディアを書き始めたきっかけです。そのうち、だんだん、知らないことをいろいろ調べて、他のだれかに伝えるためにウィキペディアに書く、ということが、私自身がとても楽しいと思うようになりました。

仕事や活動をする上で、どんな学びや経験・体験が役立っていますか?

まず読書。1日は24時間しかないので、自分自身で経験できることは限られています。でも、例えば2時間で読める1冊の本には、その本を書いた人の数十年分が詰まっていたりします。たくさんの本から多くの知識や経験にふれることで、自分の時間が何倍も濃密で豊かなものになります。
また、どんな経験もプラスに変えるのは、経験そのものよりも自分自身の心の持ち方ひとつ。失敗を恐れず、様々なことに挑戦していきたいです。

仕事や活動に関してエピソードなどがあれば教えてください

2019年に「はだしのコンサート」という音楽ライブのイベント記事を、地域でのウィキペディア編集イベントで、当時高校2年生だった生徒たちと一緒に作成しました。そしたら、2022年に後輩にあたる高校1年生(4学年下)の生徒たちが、偶然、この音楽ライブについて探究学習で調べていました。「そのウィキペディアはみんなの先輩が書いたんだよ!ちゃんと図書館の資料をいろいろ調べて、丁寧にまとめているから、参考にしてね」と激推ししたくなりました。ウィキペディアを編集する活動が、実際に、様々な人達の役に立つことを実感した、とても嬉しかった思い出です。

あなたの仕事や活動で誇(ほこ)りに思うこと、やりがいや面白いと感じることは何ですか?  

図書館に来た人や、まちおこし活動など何かをがんばっている人達に、私が書いたウィキペディアの情報が役に立ったよ!と言われたり、相談してもらえることが一番嬉しく、やりがいを感じます。
そうして誰かと一緒に様々なことに取り組んでいくと、それまで気づいていなかった素敵なものや人がたくさんあることを知り、いままでスルーしてきた景色も輝いて見えるようになります。「知る」ことは、「面白い」の始まりです!

今、一番がんばっていることは何ですか?

生成AIについて勉強したいな、というのと、高校生の探究活動や、独りでなにか勉強したいなと思っている人の役に立つ『学び方テキスト』の作成をがんばっています。社会のしくみは目まぐるしく変化していきますから、自分のやりたいことを続けていくためには、大人になっても勉強は大切ですね。

仕事や活動で、将来実現したい具体的な目標や夢を教えてください

デジタルの情報は、どこの国の言葉でも、障害のある人でも、AI等の技術で知ることができます。ウィキペディアはそんなデジタル社会で、だれもが無償で利用できる百科事典です。そこにこの世のすべての知識が結集したら、だれもが自分の好きなことを好きなだけ学ぶことができるようになるでしょう。
そんなに社会に一歩でも近づけるように、まずは自分の興味あることからウィキペディアを充実させたいと思っています。

これまでの失敗や挫折(ざせつ)体験などを教えてください

私のこれまでの生き方や評価を軽んじて自分の価値観を押し付けてくる人に、なんとか理解してほしいと頑張りすぎて、とても疲れてしまったうえに、そのうち小説かドラマのネタにできそうなくらい、活動の足をひっぱられるなど嫌な経験をいっぱいしました。他の人と話しあったり他の人の意見を尊重することは、ひととしてとても大切だと思っていますが、相手にその気持ちがない場合は、距離を置いて、自分の身と心を守ることも大切ですね。

将来の進路について悩(なや)んだり迷ったりしたときにどうやって決めましたか?

なりたい将来像がいくつかあるなら、なるべくいろんな大人の話や、本で調べたりもして、どうするのがいちばんたくさんの選択肢が残る進路なのかを考えて選びました。その時々で、その時しか選べない進路なら、自分がいちばんやりたいことを選ぶのがいいと思います。

あなたの一日の流れを教えてください

時間

やること

5:00

起床

6:00
|
7:00

猫の世話

7:30
|

8:00

出勤

9:00
|
12:00

授業の準備

13:00

学校図書館の開館

14:00
|
16:00

図書館の仕事

14:00
|
16:00

学校図書館の開館

19:00
|
21:00

コワーキングスペースでウィキペディアの編集や編集イベントの準備

22:00

帰宅

23:00

就寝

ライフ

小中学生のころはどんな子どもでしたか?

私が小・中学生の頃には、インターネットも携帯電話もなくて、自分で行ける距離にお店やゲームセンターもなかったので、低学年くらいまでは毎日近所の男の子達と道ばたで鬼ごっこや野球をしたりしていました。やんちゃな子どもでしたね。
でも、大きくなると、自然と男女一緒に遊ぶことは減ってくるので、代わりに本を読むようになりました。『シートン動物記』とか、伝記、歴史マンガなど、シリーズものが多かったです。

小中学生のころ、好き(あるいは得意)だった教科・活動・遊びは何ですか? 

得意だった教科は国語と家庭科で、好きな教科は社会と音楽でした。暗号とか記号が好きで、エジプトの古代文字(ヒエログリフ)で読む人がいない手紙を書いてみたり、自宅周辺の地図を作ろうと糸巻きに1メートルごとに印をつけて、道路の長さを測りながら歩いてみたりしたことがありますよ。

好きなことや趣味(しゅみ)、ハマっているものについて、熱く語ってください

中学生の頃は料理が好きで卒業したら調理師になりたいと思っていたのですが、周りの大人達に高校や大学でいろいろ経験してからでも遅くはないよと言われ、進学した先でいろいろな国や地域から来た人たちと知り合ったことで、各地の様々な食や文化に興味を持つようになりました。
今は、旅行先の図書館で地域について調べたり、郷土グルメや伝統文化を体験したりして、それらをウィキペディアで紹介する活動にはまっています。

いま熱く語っていただいたことについて、エピソードがあればお願いします

ウィキペディア活動をしていくなかで、ウィキペディアを書いていなかったら出会う機会はなかっただろう人とたくさん知り合いました。なかには嫌な人もいますが、その何倍も、尊敬できる人や、私を成長させてくれる人、一生ものの友達にも出会いました。身近なところにいる仲間や友人はとても大切ですが、それ以上に私を支え、成長する機会をくれているのは、「遠くにいる仲間や友人」と「近所にいる知らない業界の人」だと感じます。みなさんも、ぜひ、そんな様々な出会いを積み重ねる毎日を過ごしてほしいと思います。

人と向かい合うときに大切にしていることはなんですか?

自分を大きく見せようとしないこと、嘘をつかないこと、ですね。他人に良く思われたい、とは、だれだって自然に思うでしょうけど、一瞬だけカッコつけてみても、そんなメッキはすぐにばれてしまうものです。ほんとうに大切にしたい人との縁は、お互いに、素直な自分を見せられる関係から育まれるのではないでしょうか。

「絶対にこれだけはしない!」と心に決めていることを教えてください

これまでお世話になった人の気持ちを裏切らないこと。もし、その人が社会ではみんなから批判されるような間違いを犯すことがあっても、その間違いを認めるわけではなくても、その人の気持ちは大切にしたいです。もちろん、自分の損得だけで他人に迷惑をかけたり、他人の気持ちを踏みにじってもokと思っているような人間なら、私がお世話になったこともないと思うので、心の底から軽蔑して縁切りしますけどね!

もし過去に戻れるとしたら、やり直したい、あるいはやってみたいことはありますか? 

小学校くらいからもっとがっつりしっかり勉強しておいて、理科実験や実習がある私立の中学校や高校に通ってみたかったです(私の町にはそういう学校が無かったので、たぶん相当にずば抜けて成績が良くないと、遠方の学校に進学するのは認めてもらえなかったと思うのですが)。理系女子になって、薬学を学んで、風邪や花粉症や喘息にならない薬や、猫が健康に長生きできる薬を開発してみたかったです。

新たにチャレンジしてみたいことはありますか?

本を書いてみたいです。2023年の冬に『ウィキペディアでまちおこし』というこれまでの活動をまとめた本を紀伊国屋書店から出版してもらったのですが、書き残したことがいっぱいあって……。特に、この活動のなかで出会った人々や、初めて知った地域の魅力などを、ちゃんと、どこの図書館に行っても本棚に1冊あるような本にして、後世の人々に伝え残したいです。

これからも大切にしたい生き方の指針(モットー)は何ですか? 

柱を曲げない。「鶏口となるも牛後となるなかれ」という、ことわざがあります。“大きな団体で人の尻についているよりも、小さな団体でも頭になるほうがよい。”というような意味なのですが、私はこの言葉が高校生の頃から好きでした。
私は公立学校というある意味では大きな組織に属していますし、ウィキペディという世界一大きなコミュニティを大切に思っています。でも、そうした大きな組織の中でも、誰かの意見に流されるのではなく、自分の仕事やしたいことは、自分の意志でそうするのだと胸を張って言える生き方を大切にしたいです。

生きている間に「これだけはやっておきたい」ことを教えてもらえますか?

ダイエットに成功して、ショーウィンドーに飾ってあるマネキンと同じコーディネートを着ても、同じようにカッコよく見えるスタイルで、彼氏と旅行がしたいですね!

閲覧してくれているみなさんへのメッセージ

中学生のみなさん、あなたがそこにいることが当たり前という場所を大切にしましょう。まず家族、それから学校、そしてもうひとつかふたつ、社会のなかに、あなたがそこにいることが当たり前になるような、居心地のいい場所を持ちましょう。
人生には様々なことがあります。あなたの未来はだれにも予測できませんが、何があっても、その喜びや悲しみを共に喜び、共に悲しんでくれる人との出会いが、あなたを強くするでしょう。

漱石の猫” に対して6件のコメントがあります。

  1. peach04 より:

    こんにちは。いつもWikipediaのわかりやすい説明にお世話になっています。何かわからないことがあると、すぐに、たくさんのことを知ることができるので、何かを知ることに興味がわくようになりました。いつもありがとうございます。

    1. 管理者COMPASS より:

      こんにちは! コメントありがとうございます。Wikipediaには日本語版だけで現在140万項目以上、毎日100本前後の項目が新しく作成されているので、たいていのことは書いてあるように思われ、気になることをちょっと調べたいときにとても便利ですよね。ぜひ、興味を持った項目の記事から、青リンクをどんどんクリックした先を読んでいくなど興味を広げてみてください。でも、ひとつだけご注意を。Wikipediaはボランティアで誰でも簡単に編集できてしまうので、書いてあることが正しいとは限らないし、書きたいと思う人がいなかった内容は書いていないんです。Wikipediaは便利だけれど、書いてあることが全部とは思わず、出典となっている本や新聞やその他のウェブサイトなどとも読み比べながら活用してほしいなと思います。そしてもし、あなたが何かの本や新聞などで読んだ情報がWikipediaに書いていないのを見つけたら、ぜひそれを出典に「編集」してみてくれたら、嬉しいです!(ちゃんと出典が付いている記事なら、文章の終わりにある青い数字をクリックすると情報源がわかります。)

  2. navy012 より:

    伊達さん、こんにちは!
    僕はテストなどで難しくて長い文章を読んだり、自分の考えを表現するのがとても苦手なのですが、伊達さんの文章はなんだかスーッと入ってきました。
    Wikipediaの編集をされているからそういうことにも慣れているのかなと思いましたが、何かコツとか気を付けていることってあるんでしょうか?
    もしよかったら教えてください。よろしくお願いします。

    1. 伊達深雪 より:

      こんにちは! コメントありがとうございます。私の文章は読みやすいとのこと、うれしいですね。私が文章を書くときに気を付けていることは、まず「どんな人が読んでくれるのかな?」と、想像しながら書くようにしています。
      対面での会話なら、相手の表情など反応を見ながら、自分の話が伝わっているのが考えながら話すことができますが、文章で伝えるときは相手の反応がみえないので、より丁寧に説明する必要があるんですよね。自分の考えの前提にある価値観や言葉の意味の解釈が、もし、それを読んでくれる人と違っていたら、自分が伝えたいことが伝わりません。なので、自分の考えを表現するときは、その考えのもととなった事情など、価値観をまず共有する必要があるので、全然事情を知らない人に伝えるつもりで説明的に書いています。こうした文章の書き方は、書いた文章を実際に他の人に読んでもらって意見交換したりすると、早く上達すると思います。
       テクニック的なことを言えば、
      ①まずは短い文で書けること、思いついたことをどんどん書いてみて、それらをジグソーパズルのように並べ替える。並べ替える途中で必要に応じて接続詞を入れたり、重複している内容があれば削ったりする。
      ②(時間があるときは)書きあげた後は2~3日おいておき、自分で書いた文章を忘れた頃に読み返して、すらすらと読めるように説明を足したり、削ったりする。
      といったことを、よくしています。書いた文章が最初から読みやすいものになっているということは、あまり無いことなので、まずは思いつくままに書いてしまって、それを修正して、読み直し、修正して……と繰り返しているうちに、書きたかった文章が書けたり、言いたいことが見つかったりします。
       そういうことを何回かしているうちに書くことに慣れていきますので、まずはどんどん、思ったことを書きだす癖をつけてみてください。応援しています!

  3. brown703 より:

    wikipediaは誰でも書くことができますか?

    1. 伊達深雪 より:

      はい。だれでも編集することができます。ただし、二次利用OKな百科事典なので
      ①中立的な立場から、客観的に事実情報だけを記載する。
      ②読者が、①の通りに書かれた内容なのか検証できるように(自分で確認できるように)、信頼性の高い情報源(図書館の本や公的なメディアのサイトなど)を出典として記載する。
      ③もとの情報源を丸写ししない。
      という、ルールを守らないといけません。
      自分が思ったことや、見聞きした話をそのまま書いてはいけないので、まずは書きたい内容についてすでに書いてある本やWebサイトを探すことが必要になります。
      Wikipediaを書くことは、調べ学習やレポートを書く練習になりますよ!

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